建築家?遠藤克彦教授が設計の大阪中之島美術館
「JIA日本建築大賞」を受賞
建築家である遠藤克彦?理工学研究科(工学野)都市システム工学領域 教授の設計による大阪中之島美術館が、日本国内の特に優秀な建築作品に授与される「JIA日本建築大賞」(公益社団法人日本建築家協会主催?2022年度)を受賞しました。
大阪中之島美術館 外観(撮影:上田宏)
大阪の水都のシンボル?中之島に建てられた大阪市立の大阪中之島美術館は、2022年2月2日に開館しました。最初の構想から約40年もの期間をかけて実現されたもので、日本の公立美術館として初めて運営にPFI手法(民間事業者が経営に直接携わることで創意工夫の発揮を図る仕組み)が導入されています。
同美術館の設計にあたっては、2016年から設計コンペが行われ、3度にわたる審査の結果、遠藤克彦教授の提案が選ばれました。
ボリューム感のある黒い外観が印象的な地上5階建ての建物。コンペの段階で与えられた「パッサージュ」というキーワードを踏まえ、遠藤克彦建築研究所が提案したのは、1~5階まで連続してつながる立体的な「パッサージュ」です。1?2階は周辺の敷地と地続きになっており、誰もが気軽に懂球帝,懂球帝直播できる空間になっています。外光が入る吹き抜けの心地よいスペースで、1階には道に面してカフェやショップが配置されています。そして、4?5階に展示室が広がっており、吹き抜けに配置された2本のエスカレーターにより自由に行き交うことができます。
「美術館は、エントランスがあり作品があり鑑賞して終わりではなく、常に人が行き交える場所になると良いと考えています。"公共性とは何か"というのは難しい問いですが、『常に開かれている』というのは、シンプルかつ大切な公共性ではないかと思っています。多くの美術館にはそういう場所が無かった。今回垣根を越えて開くことができたと思います」(遠藤教授)
5階建ての積層型の建物は、美術館としては珍しい構造といえます。この5層にどう機能をまとめていくかは難しい課題だったとのこと。しかし、そのつくりによって解決された問題があると言います。それは美術品の保護です。
構想からの約40年間で大阪市がコレクションした作品は約5000点にのぼり、学芸員のみなさんの想いもひとしおです。近くに堂島川、土佐堀川というふたつの河川に挟まれている同美術館にとって、それらの作品を河川氾濫等の浸水の被害から守るというのはきわめて重要なミッションです。その意味で、1?2階を誰もが行き交うことができるスペースにしつつ、美術品については、物理的に切って上の階層にまとめ置くという合理的な構造になっています。
「周囲の敷地とつながった1?2階の部分は地形としての建築です。美術館が休館していても使える場所で、都市の回遊性の結節点という建築の責任を果たしています。美術品を見たい人はエスカレーターに乗ればいいし、パッサージュでただ本を読んでいてもいい。そういう都市体験の自由な楽しさを提供するとともに、館の運営から見たらセキュリティも保てて、人流もコントロールできる。こうした構成の明快さが良かったのではないでしょうか」(遠藤教授)
展示室は、さまざまな収蔵品の展示や企画展に対応するため、フレキシブルなホワイトキューブとなっており、空調や光の調整、間仕切りなど展示空間としての機能性や、運営における効率性が考慮されています。しかしそれだけでなく、実はパッサージュの空間も、美術作品の展示が展開できるような耐荷重や電源確保などの工夫が施されています。これを遠藤教授は「余白」と表現します。
「美術館としては、20年先、30年先という見通せない未来のために、"余白"をつくることも重要だと思っています。コレクションの作品は陽光に当てることができない貴重なものかもしれませんが、現代美術には陽光の下でこそ生きるものもあるはず。そういう振れ幅を美術館にもたせたかったんです」(遠藤教授)
さて、実際に開館してみると、以前に比べて明らかに人の流れが変わりました。2017年に敷地のすぐ近くにオフィスを構え、その地域の変化を見てきた遠藤教授も、「美術館のもつ作品や展示企画が魅力的で、多くの来場者があることはもちろんですが、設計によって人の流れがうまれ、建築でまちが変わるということも示せたと思います」と語ります。
そして訪れた人たち、利用した人たちからは、日々さまざまな評判や意見が届きます。「人の目に触れて、いいことも悪いこともいっぱい言ってくれることが建築を育ててくれていると思いますね」。
その意味では、今回の「JIA日本建築大賞」受賞も、建築を育てる大きなきっかけになるに違いありません。
「1997年に事務所を開いてから、常に設計コンペやプロポーザルにも挑み、大学教員をつとめ、ずっと走り続けてきました。自分が大切に想う建築の力を感じたいし、学生の皆さんには感じてもらいたい。今回の受賞をきっかけに、建築の力をより多くの方に知ってもらえればと思いますし、自分自身もさらに良い建築をつくっていきたいと思います。
と遠藤教授。
その上で、大学の教員という立場としては、「学生の皆さんには、身近にこういう建築家がいるということを最大限利用してもらい、その生き方を感じ取ってもらいたいと思っています。私自身がそうでしたから」と話していました。
(取材?構成:茨城大学広報室)