【土曜アカデミー】どうする!?SDGs
「誰一人取り残さない」は理念ではなく実践
茨城大学の熱い学問の世界を楽しめる「土曜アカデミー」。12月7日のテーマは「転換期のSDGsとポスト2030年に向けて」。人文社会科学部の野田真里教授が、国連のSDGs?持続可能な開発目標の重要点やコロナ禍を踏まえた上での課題について、会場のみなさんとのコミュニケーションを交えながら語りました。
SDGsを含む「我々の世界を変革する?持続可能な開発のための2030アジェンダ」は2016年から2030年までの目標。15年間のマラソンにたとえれば、既に折り返し地点を過ぎている状況です。
SDGsの中間年に、野田教授が編著者を務めた『SDGsを問い直す ポスト/ウィズ?コロナと人間の安全保障』(法律文化社)が出版されました。最先端のSDGs研究にもとづき、実務的な観点も踏まえて、国家の枠組みを超えた危機であるコロナ禍の影響や、これまでSDGsの文脈ではあまり論じられなかった「高齢者」「障害者」等の視点も盛り込んだ意欲的な1冊で、2030年のSDGs後も視野に論じられています。
野田教授はまず、国連のA.J.モハメッド副事務総長が述べた言葉を紹介しました。
「想起しよう、我々はここに一緒にいる。すべての人びとが安全になるまでは、誰も本当に安全にならない」
この言葉が示すように、「宇宙船地球号の私たちは、全員が同じリスクにさらされている」ということを世界中が痛感したのが、新型コロナ禍だといえます。「歴史的な感染症パンデミックである新型コロナ禍は、人類そしてSDGsへの重大な挑戦です」(野田教授)。
他方、SDGs自体は、それぞれに多様な利害を抱えた国?地域が全会一致で採択したものでした。「例えば、気候変動対策やプラスチックの問題でも様々な利害が絡み合う。とはいえ、SDGsの根底には、このままでは地球は持続不能に陥る、という国際社会の共通認識がある」と野田教授はその意義を強調します。
しかし、ウクライナやパレスチナの状況などを見ても、SDGsの「誰一人取り残さない」は「理想」であり、「言うのは簡単だけど実現は難しい」と思われがちです。それに対して野田教授は、「SDGsは人類共通の羅針盤なのです。実践しなければ、私たちの危機的な状態が回避できない。私たちは持続可能な地球と未来を次世代と共に創る責任があるのです」と力をこめました。
では、「実践」というレベルでSDGsを意識するためにはどうすればよいか。大切なことは、「取り残される人」が存在していることを自分ゴトとして考えることかもしれません。野田教授は会場の参加者に向けて、「みなさんのまわりに『取り残される人びと』や『取り残される地域』はありますか?」と問いかけ、近くの席にいる参加者同士との意見交換を促しました。
「感染症パンデミックという危機は人を選ばないけれど、感染症にかかるリスク、かかったあとのリスクは一様ではない。危機の影響はより脆く弱い立場の地域や人たちにとって一層深刻になる」と野田教授。女性が経済危機に対して困難な状況に陥ることを示す「Shesession(She+Recession)」という言葉を紹介した上で、日本はまさに、このジェンダー面での弱さがコロナ禍でも露呈したのだと指摘しました。
野田教授は、「コロナ禍からの復興は元の社会に戻ことではないし、そうすべきでもない。コロナ禍で顕在化した社会の脆弱性や課題を克服する『よりよい復興』(BBB)に向けて、SDGsが掲げる『誰ひとり取り残さない』ための『社会変革』を、実践的な意味において実現することが重要です」と、講義をまとめました。
その後の質疑応答のパートでは、地域紛争が絶えない中でのSDGsと国連の役割について、コロナ対策に関する検証の必要性についてなど、いくつもの質問が出され、活発な議論となりました。