【土曜アカデミー】茨城発祥!「宇宙天気」って何だろう?
-茨城大学×茨城新聞ニュースカフェ
茨城大学の学問の世界を楽しめる「土曜アカデミー」。2月8日のテーマは「太陽フレアが地球に及ぼす影響と 『宇宙天気予報』」。太陽についての研究者としてフレアや黒点の観測を続けている茨城大学理学部の野澤恵教授と、宇宙天気の周知やリスク対応のために活動する「ABlab宇宙天気プロジェクト」リーダーを務め、現在博士課程生として野澤研究室で研究をしている玉置晋さんが登壇し、太陽とは何か、宇宙天気とは何かをわかりやすく解説しました。今回は茨城新聞社とのコラボイベントでもあり、記者経験豊富な黒崎哲夫さんが、専門家ではない一般市民の目線から疑問を投げ掛け、参加者の理解を深めました。
野澤恵教授
2024年10月、NASAは、太陽の活動が活発になる「極大期」という時期に入ったと発表しました。太陽の表面で起こる爆発現象「太陽フレア」などが発生しやすくなり、電波障害などのリスクが高まります。極大期は数年続く見込みで、今年2025年は特に太陽の動きに注目が集まる年になりそうです。
そもそも、太陽とはどんな星なのでしょうか。野澤先生が、会場に問いかけます。「太陽の寿命は?」「太陽の密度は水よりも高いか、低いか?」「太陽系は、銀河のどの辺りにあるか?」―などと。これに答える形で、太陽の寿命は100億歳(年)と言われており現在約46億歳であること、密度は1.4g/㏄で水よりも少し高く仮に水に入れたら沈むこと、銀河系(半径約5万光年)の中心から2.8万光年と「かなりへんぴなところにある」こと、を丁寧に説明していきました。
太陽表面には、「黒点」があります。その名の通り黒い斑点で、小さいもので地球と同程度、大きいもので地球の数倍の大きさになります。黒点の位置や規模は日々変化しますが、およそ11年周期の増減サイクルがあり、黒点が多い時期を「極大期」と呼びます。これはつまり太陽活動が活発であることを表していて、野澤教授は「極大期のピークは2025年だが、あと5年くらいは太陽活動が激しくなる」と話しました。黒点周辺では、太陽フレアと呼ばれる爆発現象がしばしば発生し、この際X線やガンマ線など色々な電磁波が強く放出されます。そのエネルギー量は1025ジュールと、「人類が絶対に作り出すことのできない大きさのエネルギー」(野澤教授)です。地球上の全核兵器を合わせても1020ジュールほどと推察されますから、その凄まじさがわかります。
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これらが地球に降り注ぐと、地球上層の大気が電離した領域「電離圏」や、地磁気などに影響が及び、電波障害や停電などが引き起こされます。こういったリスクを事前に把握し、混乱を最小限にするため、太陽の活動や宇宙ごみの状態...つまり「宇宙天気」を注視し、周知や予測をするのが「宇宙天気予報」です。
玉置晋さん
人工衛星を運用する仕事をしながら、さまざまな宇宙天気の研究やビジネスのプロジェクトに参画している玉置さんは、宇宙天気の周知のためには、情報をわかりやすく説明する「宇宙天気予報士」「宇宙天気キャスター」が必要だと言います。
玉置さんが紹介した宇宙天気予報のイメージ動画では、「黒点上空で大規模なフレアが発生した模様です」「宇宙の嵐(CME:コロナ質量放出)が地球方面に向かっています」「嵐の到着は半日後から遅くとも3日以内と予測されます」「自動運転は手動に切り替えましょう」「高緯度地域では停電の恐れがあります」「宇宙天気災害には十分注意しましょう」―と、専門用語を使わず、身近な言葉で伝えていました。
また、講義中、玉置さんが繰り返した言葉があります。「宇宙天気の故郷は茨城」。茨城県ひたちなか市には昔、情報通信研究機構(NICT)平磯太陽観測センター(2016年閉鎖)がありました。ここで1988年、世界で初めて「宇宙天気予報」という言葉が使用されたそうです。「今日はこれだけ覚えて帰ってください」と強調しました。
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お2人の講義が終わり、黒崎さんを交えた鼎談が始まりました。3人のやりとりを抜粋して掲載します。
黒崎さん「太陽活動によって通信障害が起こることはイメージしやすいのですが、電力網へ影響があるのはなぜなのでしょうか」
玉置さん「電磁誘導という現象によるものです。地球のはるか上空で電流が流れると、地上でも誘導電流が流れてしまいます。そうすると、パイプラインや鉄道の線路に通常とは異なる電流が流れ、変電器に異常をきたしてしまうのです」
黒崎哲夫さん
黒崎さん「茨城大学は、気候変動適応の研究が盛んですよね。こういった太陽活動、宇宙の嵐が起こることは前提として、この宇宙天気の適応策はどのようなことが考えられますか」
玉置さん「電力のラインが一か所だめになったとしても、別のラインやほかの会社から助けてもらえるような仕組みになっていると良いですね。ほかの災害対策にもなるのではないでしょうか」
野澤教授「寛容な心掛けも対策の一つです。例えば飛行機で日本から海外に行く場合に、オーロラが発生しやすい北回りは避けて、遠回りでも赤道付近を飛びましょうということがあります。そうした場合に、『少し時間がかかるけどいいか』と受け入れることが必要だと思います」
黒崎さん「緩和策は何かありますか」
野澤教授「難しいですね...」
玉置さん「災害対策においては、リードタイム(準備期間)が重要になってきます。研究者の皆さんには、リードタイムを稼ぐ研究をしていただきたいです」
黒崎さん「つまり正確な観測、宇宙天気を予測するための観測技術が大切と。そして、それを伝える宇宙天気予報が重要なのですね」
(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)