【座談会】女子が工学系進路の選択をしやすくするためには?
―現役の女性学生たちと考える

 茨城大学工学部では、今年度より「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」として、中学校でのワークショップや、中学生?高校生を対象とした地元製造業へのバスツアーなどの取り組みを進めています。
 日本で理工系のキャリアを選択する女性が少ないことの背景にはどんな課題があるのか、茨城大学の工学部の女性学生比率の増加は地域産業にどんなインパクトを及ぼすと期待されるか――大学院理工学研究科博士前期課程の現役の女性の院生2人を交えた座談会を通じて考えました。

座談会の参加者

news24_0105_01 鈴木 万生 さん 大学院理工学研究科都市システム工学専攻 博士前期課程2

news24_0105_02 永井 春香 さん 大学院理工学研究科量子線科学専攻 博士前期課程1年

news24_0105_03 田嶋 美砂子 工学野准教授

news24_0105_04 乾 正知 工学部長

(進行:茨城大学広報室 山崎一希)

――茨城大学工学部として取り組む女子中高生の理系進路選択支援プログラム。応募?採択に至った背景や想いを聞かせてください。

乾学部長「現在、工学部の女子学生の比率は12%。まずは2割にしたいと思っています。技術者の半分は女性という社会を作りたいという想いで取り組んでおり、ポイントは2つあります。
 ひとつは、地域にどう貢献するか。この地域(茨城県北)は産業がしっかりあって、先端企業がたくさんある。その中で本学卒業生が就職して活躍するというのはとても良いことだと思っています。女性の方が地域志向が強いという傾向があるため、本学の工学部の女子比率が増えることは地域の産業にとってプラスに影響すると考えています。
 もうひとつはダイバーシティ。私は昔、ノルウェー工科大学に行っていたことがありますが、そこは女性がすごく多かった。理由を聞くと、『理系の方が職があるから』というシンプルなもの。理工系はたくさんチャンスがありますから、そうした仕事で多くの女性が活躍すれば世界は大きく変わるのではないでしょうか」

田嶋准教授「私は英語を担当しているのですが、学生たちのプレゼンなどを聞いていますと、自分の知識と技術を世のため人のために使いたいということを言う学生が多いんですね。そこから、『地元茨城県北部で技術者として働く誇りと喜びを』『工学を自身?他者?地域のために活用する女性の育成』というテーマを掲げました」

――では具体的にどんなプログラムを用意しているのでしょうか。

田嶋准教授「7つのプログラムがあります。①ものづくり体験教室、②中学校で女性技術者や女性研究者と触れ合うキャリアワークショップ、③高校生を主対象とする研究室でのインターンシップ、④工学部教員の出前授業、⑤中高生を対象とした地元企業の見学ツアー、⑥中学校の理科の先生への研修、⑦オープンキャンパスやこうがく祭での取り組みです」

news24_0105_05 8月に行われた女子中高生向け企業バスツアーの様子

――盛りだくさんですね。

乾学部長「これまでやっている取り組みも多く含まれていますが、それらを体系化して見せていこうと。中学校の先生向けの研修会やキャリアワークショップは新しい取り組みです」

――これらのプログラムについて現役学生のお二人はどう感じますか?

鈴木さん「高校の理系の先生は理学部出身者が多く?理学部の良さは教えてくれるのですが、工学部の話はあまり聞けませんでした。中学?高校の先生への情報提供は大事だと思います。
 それから、生徒の文理選択の前にアプローチしていく必要があると思っています。私は水戸第二高等学校出身で生徒は女子だけだったのですが、物理選択者はガクンと数が減ります。8クラスのうち理系は3クラスで、さらに物理選択となると1クラスだけ。高1で物理か生物かを選択するので、中学生や高校1年生の段階で働きかけないと、工学部に入るという選択肢自体がなくなってしまいますよね...」

永井さん「そうですね。私は男女共学でしたが、理系クラスを選ぶとやっぱり男子が多い感じです。やっぱりとっつきにくいイメージがあるんでしょうか。その上、理学か工学かとなったときに、やっぱり理学、あるいは医療?看護系を選びがちです。理系の選択の幅の広さをもっと知ってもらうのがいいと思います。工学部は機械系のイメージが強すぎるので、もっといろんなことができるんだというイメージが伝われば、と」

news24_0105_06――その中で二人が工学部という道を選んだのはなぜ?

鈴木さん「両親がいろいろな地域へ連れていってくれて、町や建築を見るのが好きだったんです。それから小学5年生のときに東日本大震災があって土木に興味を持ち始め、高校のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の課題研究では液状化のことを調べました。理系科目は苦手だったんですが、やりたいことに向かって、がんばって物理や数Ⅲを履修しました」

――高校に入ったときから強い目標意識を持っていたというのは大きいですね。永井さんは?

永井さん「私はそんなにやりたいことがあったわけではなくて、選択の幅が広がるから理系を選んだ感じです。
 文系だと文系職にしかなれないですが、理系だと文転という選択肢もできます。もともと数学が好きというのもあったのですが、間違ってなかったと思います。
 その上で私も地元で就職したいというのがあって、産業と直接結びついているのは工学部かな、と思って選びました。高校の先生からの『工学部なら、自分のやったことが社会で実際に活かされているというのが目に見えてわかる』というアドバイスも参考になりましたね」

乾学部長「理学部はサイエンス、『発見』がテーマ。それに対して工学部は『ものづくり』。世界を作っていけるという面白さをもっと伝えていきたいと思っていましたが、お二人とも早いうちからそれを感じてくれていたということですね」

news24_0105_07――そうした「ものづくり」への関心につながる経験が、小さいころにありましたか?

鈴木さん「家族で旅行して他の町を見ているうちに都市や再生建築に興味が湧きました。それから私の住んでいる地域は交通の便が良いとは言えず、地域によってどうしてこんなに違うんだろうと思ったのが、土木への関心のスタートですね。自分が住んでいる町とほかの町とを比較しながら、自分の町をもっと良くしていきたいなというのは、常に感じています」

永井さん「今思えば...という感じですが、日立製作所関係の工場が家の近くにいっぱいあって、小学校の社会科見学などで行って楽しく感じたというのは、やっぱり大きかったと思います」

乾学部長「高校生の女子が工学系よりも医療系や食品系を選択してしまうというのには、どんなファクターがあるんでしょうかね」

鈴木さん「工学系で働いている女性のイメージがあまりないんだと思います。実際、社会に出てから女性として活躍できるのかな、という不安はいっぱいありました。高校でも、出産や育児まで考えて計画を立てていきましょう、という話をされたのですが、ゼネコンやコンサルといった土木系の企業の場合、転勤もありますので、そこで本当にちゃんとできるのか...正直、将来をイメージすることは難しかったです」

永井さん「先輩たちも看護系や食品系が多かったので、工学系についての情報がなかなか入りにくいんですよ。こういう職種があるよ、というのがもっと広く知れ渡ってほしいです」

――「地元に残る」ということについてはどんな意識をもっていますか?

鈴木さん「茨城は住みやすいですよね。都心の通勤ラッシュは嫌だな...というのもあります。
 それから、もともと茨城がこうなってほしいなという思いがきっかけとなって工学系を選びました。どこまでできるかわかりませんが、地元で働いて、茨城をより良くすることを目標にがんばりたいと考えています」

永井さん「私はきょうだいがいるので、下に負担をかけたくないという経済的な理由もあって茨城大学を選んだというのもありますが、やっぱり育ってきた地元なので、何か貢献できたらという考えもあって、県外に出るという選択肢はあまりなかったですね」

news24_0105_08――二人とも実家暮らしですね。

永井さん「実家だとご飯が出るし、毎朝