気候変動対策とエネルギー危機、産?学の現実認識は?
―CRERCが都内でシンポジウム 合成燃料やDACの展望を議論
茨城大学カーボンリサイクルエネルギー研究センター(CRERC)は11月29日、東京都内の会場で、最新のエネルギー動向や二酸化炭素(CO2)の回収?貯蔵の技術について議論をするシンポジウムを開催しました。気候変動の緩和策としての脱炭素の要請と、今後も増え続ける電力や輸送にかかるエネルギーの需要への対応を、どう両立させていくのか。産業界の目線から見た現実認識も踏まえ、率直な議論が展開されました。
2023年に設立されたCRERCでは、CO2の「回収」、回収したCO2や水素などを利用した新たな燃料の「合成」、それらの燃料の安全で効率的な「利用」の3つの柱を一気通貫した研究?技術開発に取り組んでいます。内外の多様な研究者や企業、政府関係者などが関わっており、その象徴的な活動として、シンポジウムやセミナーも積極的に開催しています。
今回、元トヨタ自動車株式会社社員で石油経済に詳しい中田雅彦氏、日野自動車株式会社の通阪久貴氏、鹿島建設株式会社の野口浩氏、ENEOS株式会社の長島拓司氏が、企業から見たエネルギー動向やカーボンニュートラルへの対応などについて講演。その後は、CRERCの田中光太郎センター長も加わり、古關惠一教授がモデレーターを務める形でパネルディスカッションを展開しました。
講演で中田氏は、「石油代替エネルギーの開発が進んでいない、自動車用燃料の生産が減少気味で、日本全体の経済活動が大きく低下することが心配されます」と強い危機感を示しました。
石油生産量について、2025年には2019年比で約2分の1、2035年には4分の1まで減少するという予測を紹介した上で、その予測も「石油事業の早期撤退により、さらに早まる可能性がある」と指摘。ガソリン車については既にEV(電気自動車)化の方向へ進んでいるため、ガソリンの減少は大きな問題にならないものの、「重要なのは、日常生活の必需品の輸送から工業、漁業、農業、林業などに関わっているディーゼル車の対策」とのこと。「軽油と同じ性質の合成燃料(e-fuel)をつくることが不可欠なのに社会にその認識が広がっていない」と話します。
また、2050年までのカーボンニュートラルは、「途上国を含めるとほとんど達成不可能かもしれない」という厳しい見解を提示。「(気候変動の国際合意である)パリ協定は『Goal』であって『Target』ではない。到達目標(Target)として縛られすぎると、今度は経済活動自体が成り立たなくなる深刻なリスクがある。今後、議論の重点は、エネルギー確保というところに移っていくのではないか」と話しました。
続いて登壇した日野自動車の通阪久貴氏は、中田氏の話も受けて、世界における商用車のカーボンニュートラルの取組みの状況を紹介。
通阪氏によれば、日本では電動車がどんどん導入されてきており、大型トラックについてはFCEV(燃料電池車)の実証実験も始まっているとのこと。また、気候変動対策に最も敏感な動きを見せるヨーロッパでは、大型トラックの急速充電が可能なメガワット級の充電も実証化が始まっており、さらに水素を内部機関に使うことも展望されているようです。アメリカではバッテリーEVの事業が拡大。そのバッテリーEVが都市部で行き渡ったといえる中国では、LNG(液化天然ガス)がじわりと増えてきているのが特徴だと言います。
バッテリーや水素タンクを搭載すると積載量が減ってしまう、また代替エネルギーの価格が低くならなければ普及は難しい。そうした課題に向き合いつつ、特に走行中のCO2排出を減らすために、「内燃機関の燃費改善、低炭素燃料への対応、物流全体の効率向上...ひとつの取組みではなく、こうした対策をセットで考えなければいけない」と述べました。
その後は、鹿島建設の野口氏が、CO2吸収コンクリートなど建設資材の開発やサプライチェーンも含めた目標設定の取組みなどを説明。また、ENEOSの長島氏は、CCS(CO2の回収?貯留)からCCU(CO2の回収?利用)へとつなぐバリューチェーンの構築や、合成燃料の生産体制の現状を紹介しました。
後半のパネルディスカッションでは、まず、中田氏が講演で示したエネルギー問題への強い危機感への受け止めが各登壇者から語られました。
鹿島建設の野口氏は、工事現場で動いている重機機器がほとんど軽油で動いていることなどを踏まえ、「内燃機関はなくならない。災害時に電気重機が動くかという問題もある」と指摘。「廃食や植物は飼料や化粧品に使われ、エネルギーの原料としては限られてしまうことを考えると、いよいよ合成燃料ではないか」という考えを示しました。
CRERCの田中センター長は、「水素やアンモニアのことが多く議論されるが、やはり輸送コストなどを考えても液体燃料が必要で、e-fuelの技術開発を強く推し進めなければならない再認識した」と話しました。また、「日本の技術を途上国などへ広く普及させていくこともポイント」として、現在インドなどと共同研究を進めていることを紹介しました。
続いて田中センター長が、CRERCが開発に取り組む「湿度スイング法」というDAC(大気中のCO2の回収)技術などを説明。その上で、DACやCCU、CCS、e-fuelなどを、産業界の中期的なビジョン実現においてどのように位置づけるかについて議論が交わされました。
通阪氏は、「重要なのは経済性。たとえば商用車でe-fuelを使うときに経済的に本当に成り立つのか」と発言。「多少の価格への転化は、消費者である我々も含めて受け入れるべきか、こうしたことも議論をしていなかければならない」と話しました。
それに対して長島氏は、「黎明期は1リッター800円の価格でもお支払いいただけるユーザーは必ずいる。そうした方とスモールスタートするのが現実的なのでは」という見解を提示。その上でも「初期は政府支援が不可欠。カーボンプライシングがいくらになるのか、炭素1トンあたりいくらまでお金を出せるかが最終的には重要になる」と述べました。
中田氏は各登壇者の見解に賛意を示した上で、「こうしたシンポジウムは有効。もう時間がないと思っている。『産』と『学』が協働して『官』にもっと迫っていくような動きにつないでいかなければ」と提言しました。
最後に閉会の言葉を述べた茨城大学の金野満理事?副学長は、「地に足のついた白熱した議論ができた。今の化石文明を次の文明にどう変換させていくかという大きな話。社会システム、適応、緩和技術といった領域をまたいだ『総合気候変動科学』の研究を大学として進めていきたい」と話しました。